いわゆる私的諮問機関に関する判例について(2)

2 平成14年9月24日福岡地裁判決(平成13年(行ウ)第25号)
 (1) 対象
福岡県若宮町*1が設置した「まちづくり委員会」。当初は(平成9年9月)、規則(若宮町21まちづくり委員会設置規則)により設置していたが、平成13年10月、条例(若宮町21まちづくり委員会設置条例)を制定している。
 (2) 町の主張(原文)
地方自治法は法律又は条例に根拠を持たない「附属機関」の設置を禁止しているところ、「附属機関」にあたらないのであれば、法律又は条例の根拠がなくとも、長の自治組織権に基づいて設置することが可能である。そこで、どのような場合に「附属機関」となるかとの解釈が問題となるが、長の自治組織権は憲法上の権能であり、可能な限り長の自治組織権を尊重する見地から解釈すべきである。そして、かかる見地から見れば、仮に附属機関条例主義の趣旨として「附属機関に対する議会の統制」という点を重視したとしても、少なくとも、一定の課題解決に向けた企画・立案過程の一環としての活動ではなく企画・立案のテーマ選択や要否決定等のための極めて初動段階での情報収集の一環としての活動にすぎない場合で、しかも組織として統一的な意思形成をすることもなく長に対する拘束力も弱いような場合には、要綱等による設置を認めても附属機関条例主義の趣旨に反することはなく、「附属機関」にはあたらないと解すべきである。
「まちづくり委員会」は、特にテーマも定まっていない状況から、自由にテーマを選択して意見を述べるというものであり、計画・立案の極めて初動段階での情報収集の一環としての意味をもつものに過ぎず、なんらかの課題解決に向けた企画立案過程の一環ではない。また、「まちづくり委員会」での活動は、委員が自由に意見を出し合って、それを報告するというものであって、組織としての統一的意見を提言するものでもない。
かかる点に照らせば、「まちづくり委員会」は「附属機関」にはあたらないと解され、「まちづくり委員会」の委員は「審査会、審議会及び調査会の委員その他の構成員」に該当せず、本件公金支出は地方自治法203条、204条に反するものではない。
 (3) 裁判所の判断(原文)
地方自治法によれば、普通地方公共団体の執行機関は、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う附属機関を法律又は条例の定めるところによって設置することができると規定している(地方自治法138条の4第3項、202条の3第1項)。このことは、執行機関の附属機関を設置するには法律又は条例の定めるところによることを要し、附属機関が法律又は条例で設置されていない場合、附属機関の委員の任命行為は無効であって、委員に対する報酬等の支払いは違法である。
そこで「まちづくり委員会」が「附属機関」に当たるか否かにつき検討する。証拠……によれば、「まちづくり委員会」は、被告が町長として平成9年9月6日に施行したまちづくり委員会設置規則(以下「本件規則」という。)によって設置されたものであるが、平成13年10月1日に施行された本件条例によって条例上の根拠を有するようになったこと、本件規則及び本件条例の内容は別紙記載のとおりであること、「まちづくり委員会」の委員に対する費用支出は、総務費を款、総務管理費を項、地域づくり推進事業費を目とし、節細説として委員報酬又は旅費(費用弁償)という費目であることが認められる。
以上によれば、本件規則と本件条例の違いは、2条と6条及び8条だけであって、その違いは、2条が、本件規則では見出しを「目的」とし「委員会は、本町の個性ある地域づくりについて、調査・研究・討議を行い町長に提言することを目的とする。」と規定しているのに対し、本件条例では見出しを「所掌事務」とし「委員会は、町長の諮問に応じ、本町の個性ある地域づくりについて調査・研究・討議を行いこれらの事項について、町長に答申する。」と規定し、6条が、本件規則では「委員会を円滑に運営するため、運営委員を置く。運営委員は、各校区を代表し、委員会の運営の基本方針を協議する。」と規定しているのに対し、本件条例では「委員会を円滑に運営するため、6人以内の運営委員を置くことができる。」と規定し、8条が、本件規則では見出しを「事務局」とし「委員会の事務局は、企画振興課に置く。」と規定しているのに対し、本件条例では見出しを「庶務」とし「委員会の庶務は、企画振興課において処理する。」と規定し、その実質は何ら変わっていないこと、本件規則の2条において定められた「まちづくり委員会」の目的は「地域づくりについて、調査・研究・討議を行い、町長に提言する」というのであって、これは地方自治法138条の4第3項が規定する「諮問又は調査のための機関」といわざるをえないこと、「まちづくり委員会」の委員に対する費用支出が、附属機関としての委員に対する費用支出の項目でなされており、かかる事実からすると、「まちづくり委員会」は地方自治法138条の4第3項が定める附属機関としての実態を有しているといわざるをえない。
被告は、「まちづくり委員会」が一定の課題解決に向けた企画・立案過程の一環としての活動ではなく、企画・立案のテーマ選択や要否決定等のための極めて初動段階での情報収集の一環に過ぎない場合で、しかも組織として統一的な意思形成をすることもなく、長に対する拘束力も弱いような場合には、要綱等による設置を認めても附属機関条例主義の趣旨に反することはなく、附属機関には当たらない旨主張するところ、同主張は独自の見解であって、「まちづくり委員会」がその後条例上の委員会となっていること、「まちづくり委員会」が私的諮問機関であるといいながら、同委員会の事務局が若宮町の企画振興課に置かれる等地方自治法202条の3第3項を意識した規定となっているなどの実態からすると、「まちづくり委員会」は地方自治法138条の4第3項が規定する執行機関の附属機関であると解すべきである。
 (4) その他
若宮町では、同様に法律又は条例に根拠を有しない「若宮町教育施設適正化審議会」、「若宮町商工観光振興審議会」及び「若宮町農業振興審議会」について同様に裁判になっており、福岡地方裁判所により、本件判例と同日に同じ内容の判決が出されている。
 (5) 判例に対する見解
裁判所は、設置根拠を当初規則であったものを後に条例にしているが両者にほとんど違いがなく、委員に対する費用を支払う科目が報酬であり*2、そして町の主張も独自の見解として、本件委員会は附属機関に当たると判断している。
実際、町の主張は、ほとんど取り上げるのに値しないものである。この判決がなされた日と同日に他の条例に根拠を有しない審議会についても違法とされていることからすると、町における取扱いはかなり不適切なものであったと考えられる。また、通常、私的諮問機関は要綱で設置するが、本件は規則であったということもよく分からない点である。条例と規則の違いも意識していなかったのではないかとは言い過ぎだろうか。

*1:2006年2月、宮田町との合併により宮若市となる。

*2:私的諮問機関であれば、報償費とするのが通常である(2007年5月20日付け記事「自治体の組織(9)〜附属機関(その2)」参照)。