届出制とその規制手法について(その4)

bottomさん(http://bottom.at.webry.info/200701/article_23.html)(http://bottom.at.webry.info/200701/article_25.html)とkei-zuさん(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20070130)(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20070131)が公表について取り上げておられたので、公表そのものについては、別の項目で思うところを記すことにして、ここでは、前回記載したように、景観法のような仕組みに公表という制度を加えることが可能であるか思うところを記す。
公表の種類について、平谷英明「公表についての一考察」地方自治(第695号)では、次の8つを挙げている*1

(1) 不正や不当な行為の事前防止:公表されると分かっているので、限度額以上の寄付や外国人からの寄付など違法な金銭の授受をしなくなる。(例:政治資金の公表(政治資金規正法第20条))
(2) 行政の透明化、オープン化:公表の目的としては、最もポピュラーなもので、公表により住民のチェックが容易になる。(例:監査結果の公表(地方自治法第199条第9項・第12項)、外部監査の公表(地方自治法第252条の38第3項・第6項)、人事運営(任用、給与、勤務条件など)の公表(地方公務員法第58条の2))
(3) 公的な認知:公表によりPFI事業として認知され、PFI事業としての予算措置や補助金交付や地方交付税の算入などが可能になる。(例:PFI事業の実施方針の公表(PFI法第5条第3項))
(4) 被害の拡大防止、警告:公表により事後の対応がより適正に行われやすくなる。(例:悪徳リフォーム業者の公表、アスベストの労災認定事業所の公表、入札停止業者の公表)
(5) 住民参加の前提:公表により住民の政策への主体的参加がより容易になる。(例:パブリック・コメントを求める際の公表(平成11年閣議決定)、市町村の合併協議会設置の住民請求に対する対応の各過程の公表(市町村の合併の特例等に関する法律第4条・第5条))
(6) 行政機関間の関係の公正性、オープン性:公表により行政機関間の関与がより公正でオープンなものになる。:公表により行政機関間の関与がより公正でオープンなものになる。(例:都道府県知事が行う市町村の適正規模の勧告の公表(地方自治法第8条の2第4項)、自治紛争処理委員会の調停の経過の公表(地方自治法第250条の14第1項〜第4項))
(7) 行政指導の実効性確保の手段:公表を担保としながら、助言や指導が有効に機能するようにするものである。(例:土地の利用目的の変更の勧告に従わなかった場合に行われる勧告内容などの公表(国土利用計画法第26条)、まちづくり条例又は景観条例に基づき、まちづくり計画又は景観づくり基準と整合を図るための勧告に従わなかった場合に行われる勧告内容などの公表)
(8) 義務履行の手段:公表を担保として指示を履行させるもので、(7)と同様に公表の機能を活用させるが、事前の指導や勧告がない点が異なっている。(例:指定物質の販売価格を標準価格以下とするようにとの指示に正当な理由なく従わなかった場合にその旨の公表(国民生活安定緊急措置法第7条第2項))

私の自治体では、勧告を行った結果、それに従わない場合には、住民にその行政指導が適切かどうかを問うために公表するのだといったような考え方をしていたと思う。この考え方が、独自のものなのか、他の自治体を参考にしたものなのかは分からないが、住民に知らしめるという観点から整理していることについては、それなりに意味があるようにも思えるが、よく考えてみると、行政指導の適否を事後的に住民に問うというのは、ちょっと荒い考え方のように思うし、行政命令という仕組みを取り入れた場合には、もはやこのような考え方をとることはできないであろう。
上述の(7)のとおり、従来の景観条例に設けられていた公表の性格は、行政指導の実効性の確保の手段であり、一種の制裁と考えるのが一般的なのであろうから、このような公表を設けることができるかという観点から考えたい。
景観法の仕組みに公表を取り入れようとする場合、①第16条第3項の勧告に関して公表する、②第17条第1項の変更命令に関して公表する、③勧告と変更命令の両方に関して公表するという3つのパターンが考えられるだろう。
このうち、①については、変更命令違反の場合には罰則にしているのに、勧告の場合に公表にするということについて理論的な説明をすることは難しいのではないかと思う。
次に、②が可能であれば、③も問題ないと思うので、②について考えてみることにする。
この点について、参議院法制局・法制執務コラム集(「企業名の公表」)では、命令に従わない場合について罰則と公表の両方を規定した例はないが、理論的に不可能かどうか検討する余地があるとしている*2。しかし、私は、なかなか難しいのではないかと思っている。
命令に関する公表は、命令を行った事実の公表と命令違反の事実の公表が考えられる。前者の場合は、制裁という意図で行うことは難しいと思う*3。そして、後者の場合には、制裁としてなぜ公表と罰則を用意するのか、説明が難しいと思う。
ちなみに、公表に対する評価として、前掲論文は、次のように記載している。

公表について行政法学者は概ね、情報提供の手段としての公表はともかく、(7)又は(8)のような「行政指導については、制裁の本来的な手段である行政罰を用いることが適当ではないため、その実効性を確保しようとする場合には、やむを得ず公表という手段が用いられているのであろう。しかし、公表は、その実効性を国民による批判・非難に期待するという点で、適切な手段とはいい難い(芝池義一『行政法総論講義第4版』)。」と解している。

現段階としては、景観法のような仕組みに公表を取り入れることは、難しいのではないだろうか。

*1:各項目の例示は、現在では適当でないものもあるが、論文に掲載されているものをそのまま掲げている。

*2:木佐茂男『自治立法の理論と手法』(P248〜)では、公表の法的仕組みを、①事前に住民に何らかの法的な義務があるかどうか、②事前に勧告等の行政指導や不利益処分を行うかどうか、③公表事項がどのようなものか(法的義務違反の旨、行政指導や不利益処分の事実、行政指導や不利益処分に従わないこと等)によって分類しているが、罰則まで課すことを想定した分類であるかどうかは明確でない。

*3:例えば、特定商取引に関する法律第8条第2項は、命令をした場合に公表する旨規定しているが、これは情報提供という趣旨であろう。