「新旧対照表方式の意義と展望」

松下啓一先生が、『自治体法務研究』に「新旧対照表方式の意義と展望」を掲載されています。松下先生には、この論文において、このブログの関連記事も含め過分なお言葉をいただいていますが、私自身、勉強をさせていただくよい機会を得たものと思っています。
そんなこともあって、松下先生のこの論文について記載するのもどうかと思うのですが、これまで新旧対照表方式について取り上げてきた以上、何も触れないのもどうかと思い、2点程ですが感想めいたことを記載しておきます。
1点目は、新旧対照表方式に関する制度設計についてです。松下先生が提示されている例(『自治体法務研究No.17』(P64))は、「○○条例の一部を次のように改正する」という文以外に特別な改め文を置かない非常にシンプルなものになっています。これは、「法制執務についても、行政だけがわかるという内向きの作法を改め、市民、議員が自治の当事者(野球の9人)になれるように再構築していくことが急務である」(同誌(P64))というお考えからくるものなのだと思います。
この、「野球は9人でやる」ということとは少し違うとは思いますが、地方自治法上、住民の直接請求として条例の改正の請求が認められ(同法第74条)、その請求に当たっては、条例案を添付することが要求されています(地方自治法施行規則別記条例制定(改廃)請求書様式参照)。この条例案は、形式が一応整備されておれば足り、立法技術上の多少の不備は問わないものと解されていますが(松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改定版)』(P232))、住民が立案するということを前提にした場合には、その形式が簡易なものであるに越したことはなく、その意味で、少なくとも条例については、法律でその立案形式を簡易なものとすべきとの要請があると考えることができるかもしれません。
また、新旧対照表方式を導入している自治体の実例が多く挙げられており、この導入を考える際には、非常に参考になるでしょう。
2点目は、新旧対照表方式の推進に関連してです。松下先生は、従来の改め文方式に強い問題意識を持つべきは、議員であるとして、議員から提案を受けて新旧対照表方式を導入した荒川区の例を挙げられています(同誌(P71))。私は、このような例があったことは承知していなかったのですが、堤中富和ほか『自治体職員のための政策法務入門1総務課の巻・自治基本条例をつくることになったけれど』(P97〜・藤島光雄氏執筆)にもエピソードとして挙げられているので、方式を改めることまではいかないにしても、実例としては結構あるのかもしれません。
議員や住民に例規に関心を持ってもらうことは大切なことでしょうし、そのような中から、新旧対照表方式の導入について意見が出てくるのであれば、真剣に考えなければいけないのでしょう。このような方の意見については、これからも注目していきたいと思っています。

(参考) 過去に新旧対照表について記載した記事