「○○に相当する金額」

金額を表示する際に、次のように「○○に相当する金額」という用語をよく見かける。

平成21年法律第28号による改正前の道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和33年法律第34号)
(道路整備費の財源)
第3条 政府は、平成20年度以降10箇年間は、毎年度、次に掲げる額の合算額相当する金額を道路整備費の財源に充てなければならない。ただし、その金額が当該年度の道路整備費の予算額を超えるときは、当該超える金額については、この限りでない。
(1) 当該年度の揮発油税等の収入額の予算額
(2) 当該年度の前年度以前で平成20年度以降の各年度の揮発油税等の収入額の決算額(当該年度の前年度については、揮発油税等の収入額の予算額)の合計額が当該各年度の道路整備費の決算額(当該年度の前年度については、道路整備費の予算額)の合計額を超えるときは、当該超える額
2〜9  (略)

「相当する金額」という用語について、この法律の前身である「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」*1第3条では、次のように用いられている。

政府は昭和29年度以降5箇年間は、毎年度揮発油税法(昭和24年法律第44号)による当該年度の税収入頼に相当する金額を、道路整備5箇年計画の実施に要する道路法及び道路の修繕に関する法律(昭和22年法律第282号)に基く国の負担金又は補助金の財源に充てなければならない。

この「相当する金額」という用語が用いられた理由は、次のようなものであるようである。

道路整備臨時措置法をめぐる論議では、使途が特定の事業に限定された目的税を認めるかどうかが最大の争点となった。 
当時、目的税には、「財政の硬直化を招く」とする否定的な見解が主流だった。大蔵省は、田中氏(田中角栄*2揮発油税収を道路整備の財源に充てる法律の準備中と聞きつけると、「予算の編成権は行政府の専権事項だ。揮発油税目的税化は、三権分立を定めた憲法に抵触する」と全面的な反対論を展開した。 
ところが、田中氏は奇策でこれをかわした。「揮発油税を道路整備に充てる」という条文の文言を、「揮発油税収入相当額以上を道路整備に充てる」と書き改めるというものだった。 
ガソリンの税収をまず国庫に入れる。その代わり、税収と同額以上の予算を道路のために使うことを担保する。これなら、目的税ではないから、大蔵省の予算編成権を侵害せず、道路整備のための財源も捻出できるというわけだ。(読売新聞政治部『法律はこうして生まれた』(P126))

金銭は、価値を表象するもので、それ自体は個性があるわけではないので「相当する金額」という言い方をするのだと思っていたが、元々はそのような言い方をしないことが考えられていたようなのである。

*1:「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」は、揮発油税道路特定財源とするものであり、1953年に制定されたが、1958年に「道路整備緊急措置法」に継承され、更に「道路整備緊急措置法」は2003年に「道路整備費の財源等の特例に関する法律」に、2008年に現在の「道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」に改題された。

*2:管理人注記