議員提出条例案の審査体制

前回(2011年6月24日付け記事「『つくろう議員提案の政策条例』」)取り上げさせていただいたのだが、松下啓一先生の著書「つくろう議員提案の政策条例」(P71〜)には、次のような記述がある。

議員をサポートする議会事務局職員については、より専門的な知識の習得に努力してもらいたいが、すでに見たように少人数であり、やるべき仕事も多い。「法制担当者の議会事務局への兼務発令」……というのは、多くの自治体にとっては現実的対応であろう。

次の山口道昭教授の見解も、同様の考え方に立つものであろう。

議会と執行機関の関係を、国と三権分立にならって厳格に切り離す方法も考えられるが、自治体、特に市町村の場合には、規模が小さいこともあって、それほど厳格に考えることもない。むしろ、自治政策法務の推進のためには、執行機関の(政策)法務担当が議会の政策法務担当を兼務するなど柔軟に人事配置することのほうが、メリットが大きいであろう。(鈴木庸夫編『自治体法務改革の理論』(P154〜))

執行機関の法制担当者が議会事務局と兼務することについて、上記記事で私は、「総論では賛成なのですが、実際問題として、議員提案の条例まで面倒を見ろと言われても、やっていられないというのが正直なところではないかと感じています」と記載した。実は、私も同様に兼務すればいいといった考え方を持っていたことがあったのだが、現在は、現実的にそのような体制をとった場合には、法制担当者としてみると、ちょっとつらいかなという感じがしている。
国における議院法制局の業務に関して、元内閣法制局長官の津野修氏は、次のように述べている。

……私たちは各省が書いてきたものを審査して精密にするわけですが、議院法制局の場合は全部自分で作らないといけないのです。自分で調べてやらないといけないものですから、もっと大変だと思うのです。各省庁の分と審査の分と両方やらないといけないという意味で、議院法制局はそれは容易ではない部分があると思います。そういう意味ではしんどい仕事だろうとお見受けします。(松尾浩也ほか『立法の平易化』(P311))

この議院法制局における条文化までの作業が具体的にどのようなものかについて、元参議院法制局第三部長の石村健氏は、次のように述べている。

通例、議員側で政策がある程度固まると、議院法制局の担当課長に政策をなんらかの形で記載した文書(「政策要綱」と呼ばれることがある)を手交し、法律案の立案・起草を依頼する。議院法制局の担当課は、当該政策要綱に政策を実現するためにもっともふさわしい合憲的なシステムが示されていない場合にはそれを案出する(政策及び上記のシステムを記載した文書は、「法律案大綱」と呼ばれることがある)。政策要綱上のシステムと異なるシステムを採用した法律案大綱については、担当課長は部長審査を経たうえでそれを議員側に示し了解を求める。これは、いいかえれば意見具申である。次に、法律案大綱の条文化の作業が開始されるが、その過程においては、議員側と協議を要する事項が次々と現れるのが通例である。その都度、議院法制局の担当課は、文書を準備して議員側と折衝し、疑義をただすとともに意見具申を行う。……(大森政輔ほか『立法学講義』(P152〜))

自治体においても、その程度はともかくとして、議会事務局で同様の業務を行う必要があるであろう。そうすると、執行機関との調整のほか、上記に「議員側と協議を要する事項が次々と現れるのが通例である」とあるが、議員と事務局との間でキャッチボールをする必要が生じてくる。さらに、議員が条例づくりを行うと、どうしても条文づくりに傾斜する傾向があり、一層やっかいになる。通常、執行機関の法制担当は、一つの議会、特に2月議会には、提出する条例を何本も担当するのが通例だろうから、さらに議会事務局と兼務してこのような作業をするというのでは、やっていられないということになるだろう。
もちろん、執行機関の法制担当は、いわゆる法制執務のみを担当し、その余の事務は、専任の議会事務局職員が担当するということも考えられる。しかし、上記のキャッチボールは、当然条文づくりと並行して行うであろうから、やはり、やっていられないのである。
私は、議員提出の条例案に係る議会事務局における業務は、一体的に行うことが合理的だと感じている。そうすると、ありきたりの発想だが、1人ないし数人の例規審査経験者を議会事務局に専任で配置するのが現実的な方法ではないかと思っている。