内閣法制局における審査

衆議院議員江田憲司氏が、かつて通商産業省(現・経済産業省)在籍時に内閣法制局の審査を受けたときのことを、自身のサイトで次のように記している。

世間で「法の番人」と呼ばれる内閣法制局は、霞が関では「法匪(ほうひ)」と呼ばれていた。私が通商産業省(現・経済産業省)の官房総務課で法令審査を担当していた25年ほど前の話である。
内閣法制局は、内閣(政府)が国会に提出する法案について、閣議決定に先立ち"純粋に法律的な"見地から問題がないかどうか審査する役所で、その了承がなければ、政府は一切の法案を国会に提出できない。総勢100人にも満たない小所帯だが、とにかく頑固で頭が固く、法律の「厳密な解釈」を盾に一歩も譲らない。各省庁の官房で法令審査担当となった者の表情は、一様に暗くなったものだ。
担当になると、毎日、内閣法制局に通うことになる。通産省で実際の行政事務を担当する原局原課の法令作成担当(課長補佐か係長)と、法案を携えて静まりかえった大部屋を訪ねると、衝立の向こうに設えられた半個室から担当の参事官(課長クラス)が顔を見せ、正方形のテーブルを囲んでの「無制限一本勝負」が始まる。
チェックは非常に細かい。法律的な観点のみから、「及び」や「又は」の使い方、さらに句点や読点の打ち方まで仔細に検討され、あっという間に数時間が過ぎ去る。参事官が法律論の宇宙に入り込んだが最後、「宇宙遊泳」から戻ってくる数時間後まで、担当者はひたすら待つしかない。朝10時から午前2時、3時まで雪隠詰めだ。
法制局の担当参事官は各省庁からの出向者だから、こちらの手の内をよく知っている。しかも、お目こぼしや手抜きで法案を作成して上にあげると、次長や部長、長官といった「法匪の権化」に論破されて却下されるものだから、しつこい。唯我独尊の参事官から宿題をたくさんもらって午前様で役所に帰り、必死に宿題をこなす。朝5時に帰れればいいほうで、帰れないときは簡易ベッドで寝て、そのまま10時には宿題を返しに行く。そんな生活が1年のうち半分だった。

実際に例規審査に携わる者は、えてして内閣法制局の審査を美化して捉えがちである。もちろん自治体における例規審査がこれほどとは思わないが、立場が変われば感じ方も違うということである。こうしたことも踏まえて審査を行わなければいけないのだろう。