「の規定に基づく」と「の規定による」(上)
ある規定で書かれている用語を他の規定で引用する場合の表現として、「の規定による」と「に規定する」の使い分けについて触れたことがある(2006年10月8日付け記事「『第○条の規定による××』とするか『第○条に規定する××』とするか」)。これは初期の頃の記事で、それだけ悩んだことがあるから、この頃に取り上げたわけである。
ところで、「の規定に基づく」という表現が使われることがある。この表現について解説したものは、あまり見たことがないのだが、参議院法制局第二部長の長野秀幸氏が『自治体法務研究』に連載されている記事に、次のように記載されている。
「の規定に基づく」は、「の規定による」と同様の意味合いを持つ使い方ですが、「特にその規定を根拠にする」という意味合いを強調するときに使うとされています(参議院法制局第二部長 長野秀幸「法令用語の使い方25 【に規定する・の規定による】」『自治体法務研究 No.25』(P85))。
具体的な用例としては、前掲記事には、景観法第26条の「前条第2項の規定に基づく条例」という例を挙げているが、その他、次のような例がある。
<例1>
排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する法律(平成22年法律第41号)
(強制徴収)
第13条 第9条第6項の規定に基づく占用料若しくは土砂採取料、同条第7項の規定に基づく過怠金又は第11条第9項の規定に基づく負担金(以下この条において「負担金等」と総称する。)をその納期限までに納付しない者がある場合においては、国土交通大臣は、督促状によって納付すべき期限を指定して督促しなければならない。この場合において、督促状により指定すべき期限は、督促状を発する日から起算して20日以上経過した日でなければならない。
2〜4 (略)
(参考)排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する法律(平成22年法律第41号)
(特定離島港湾施設の存する港湾における水域の占用の許可等)
第9条 (略)
2〜5 (略)
6 国土交通大臣は、国土交通省令で定めるところにより、第1項第1号又は第2号の行為に係る同項の許可を受けた者から占用料又は土砂採取料を徴収することができる。
7 国土交通大臣は、国土交通省令で定めるところにより、偽りその他不正の行為により前項の占用料又は土砂採取料の徴収を免れた者から、その徴収を免れた金額の5倍に相当する金額以下の過怠金を徴収することができる。
(監督処分)
第11条 (略)
2〜8 (略)
9 第3項から第6項までに規定する撤去、保管、売却、公示その他の措置に要した費用は、当該工作物等の返還を受けるべき所有者等その他当該工作物等の撤去等を命ずべき者の負担とする。
10 (略)
<例2>
地方公共団体の特定の事務の郵便局における取扱いに関する法律(平成13年法律第120号)
(郵便局における事務の取扱い)
第2条 地方公共団体は、次に掲げる当該地方公共団体の事務を、当該地方公共団体において取り扱うほか、次条第1項の規定により当該地方公共団体が指定した郵便局において取り扱わせることができる。
(1) 戸籍法(昭和22年法律第224号)第10条第1項の規定に基づく同項の戸籍の謄本若しくは抄本若しくは戸籍に記載した事項に関する証明書若しくは同法第120条第1項の磁気ディスクをもって調製された戸籍に記録されている事項の全部若しくは一部を証明した書面(以下この号において「戸籍謄本等」という。)の交付(当該戸籍に記載され、又は記録されている者に対するものに限る。)又は同法第12条の2において準用する同法第10条第1項の規定に基づく同法第12条の2の除かれた戸籍の謄本若しくは抄本若しくは除かれた戸籍に記載した事項に関する証明書若しくは同法第120条第1項の磁気ディスクをもって調製された除かれた戸籍に記録されている事項の全部若しくは一部を証明した書面(以下この号において「除籍謄本等」という。)の交付(当該除かれた戸籍に記載され、又は記録されている者に対するものに限る。)の請求の受付及び当該請求に係る戸籍謄本等又は除籍謄本等の引渡し
(2)〜(6) (略)
(参考)
戸籍法(昭和22年法律第224号)
第10条 戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされたものであつて、当該記載が第24条第2項の規定によつて訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。
2・3 (略)
<例3>
市町村の合併の特例等に関する法律(平成16年法律第59号)
(市となるべき要件の特例)
第7条 次に掲げる処分については、地方自治法第8条第1項各号の規定にかかわらず、市となるべき普通地方公共団体の要件は、人口3万以上を有することとする。
(1) 地方自治法第7条第1項又は第3項の規定に基づき市を設置する処分のうち市町村の合併に係るもの(次項の規定に該当するものを除く。)
(2) 地方自治法第8条第3項の規定に基づき町村を市とする処分のうち市町村の合併により他の市町村の区域の全部又は一部を編入する町村に係るもの(当該市町村の合併の日に市とするものに限る。)
2 地方自治法第7条第1項又は第3項の規定に基づき市の区域の全部を含む区域をもって市を設置する処分のうち市町村の合併に係るものについては、当該処分により設置されるべき当該普通地方公共団体が同法第8条第1項各号に掲げる要件のいずれかを備えていない場合であっても、同項各号に掲げる要件を備えているものとみなす。
(参考)
地方自治法(昭和22年法律第67号)
第7条 市町村の廃置分合又は市町村の境界変更は、関係市町村の申請に基き、都道府県知事が当該都道府県の議会の議決を経てこれを定め、直ちにその旨を総務大臣に届け出なければならない。
2 (略)
3 都道府県の境界にわたる市町村の設置を伴う市町村の廃置分合又は市町村の境界の変更は、関係のある普通地方公共団体の申請に基づき、総務大臣がこれを定める。
4〜8 (略)
第8条 (略)
2 (略)
3 町村を市とし又は市を町村とする処分は第7条第1項、第2項及び第6項から第8項までの例により、村を町とし又は町を村とする処分は同条第1項及び第6項から第8項までの例により、これを行うものとする。
例1と例2は、まさに「その規定を根拠にする」という意味合いを強調する例といえるだろう。
そして、例3は、ある規定で書かれている用語をそのまま引用するのでなく、多少用語を変えて引用する必要があるため、その根拠規定を強調する必要がある場合の例といえるのではないだろうか。