遡及適用(上)

少し前に、kei-zuさん(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20081019)が遡及適用について触れられており、その考え方は、遡及適用を行うべきでないのはどのような場合なのかという、言わば政策的な判断を行うときに非常に参考になると思います。ただし、どのような場合に行うことができないかという、言わば法制執務的な見地からすると、罰則の遡及適用のように憲法上禁止されているような場合を除けば何でもありなのではないかと私は感じています。
そこで、法令において適切でないと思われる遡及適用の事例を中心に取り上げてみたいと思います。
遡及適用とは、法令が過去の時点までさかのぼり、過去の事象に対して適用されることであるとされている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P272)参照)。そして、佐藤達夫法制執務提要(第二次改定新版)』(P347)では、「遡及適用によつて過去の事実関係を法律の認める関係に正当化する場合などもある」とも記載されている。
そのような過去の事実関係を正当化した例として、1997年4月のいわゆる駐留軍用地特措法*1の一部改正法における経過規定によるものを挙げることができる。この改正法の内容について、人見剛『分権改革と自治体法理』(P23〜)には次のように記載されている。

さて、今回の改正法の主要な内容は、従来の特措法に以下のような効果をもたらす15条から17条の3か条と附則を加えるものである。
(1) まず、防衛施設局長が、現在米軍用に供されている土地等について収用委員会に裁決の申請を行ったときは、同委員会の明渡裁決において定められる明渡しの期限までの間は、損失補償の額に相当する担保を供託すれば、使用期限が切れても使用を継続すること(暫定使用)ができること。
(2) さらに、収用委員会が強制使用等の裁決申請を却下した後も、防衛施設局長が建設大臣に審査請求をした場合は、それが却下又は棄却されるまでは暫定使用ができること。
(3) そして、右の改正の経過措置として、すでに収用委員会に裁決の申請がなされ審理中の土地はもちろん、すでに使用期限が切れて国の不法占拠状態になっている土地(いわゆる楚辺通信所用地の一部)についても、同様に遡って暫定使用ができること。

上記の(3)が遡及適用の部分であり、学説では行政法令不遡及の原則の見地から適当でないという見解が有力のようである(前掲書(P29〜)参照)。
確かに、適当な事例とは思えないが、それは政策的な問題であり、このような遡及適用が不可能であるとまでは言えないのであろう。

*1:正確には、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」という。