いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(2)

2 平成25年6月25日奈良地裁判決(平成24年(行ウ)7号)及び平成25年11月7日大阪高裁判決(平成25年(行コ)128号)
 (1) 対象
生駒市市民自治推進会議
 (2) 活動内容
市民活動団体の支援制度や市民自治協議会の設立等について協議したほか、市からの提案に基づき、生駒市市民投票条例案を検討するとともに、住民の意見を同条例案に反映させるためのアンケートや同条例案に対するパブリックコメントを行った。
生駒市市民投票条例案については、その条例案を、同会議としての意見を付した上で市長に提出した。
 (3) 裁判所の判断(原文)
  ア 附属機関の意義
法138条の4第3項は、「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員会、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。」と規定し、普通地方公共団体は、法律又は条例による場合に限り任意に附属機関を設け得る旨定めている。上記規定は、普通地方公共団体の行政組織の一環をなす附属機関に関する恣意的な設置や濫立等を防止するために議会等による規律を要するとしたものと解されるから、附属機関が法律又は条例で設置されていない場合には当該附属機関の設置及びこれに基づく委員の任命行為は無効であると解するのが相当である。そして、上記規定の趣旨及び文言に照らせば、附属機関とは、執行機関の要請により行政執行の前提として必要な調停、審査、諮問及び調査等を行う機関全般を指すものと解するのが相当である。
  イ 本件推進会議の附属機関該当性
本件推進会議は、基本条例の趣旨及び目的の周知、基本条例の進行管理並びに基本条例推進の上で特に必要と認められる事項を所掌事務とし、会長及び副会長各1名を置くとされるほか、本件推進会議は会長が招集して議長になると定められているから、定足数や決議要件が定められていないことを考慮しても、本件推進会議は上記所掌事務を遂行するために一つの機関として職務を遂行することが本件要綱上予定されていると解される。また、会長が必要があると認めるときは会議に関係者の出席、説明若しくは意見陳述又は資料の提出を求めることができると定められていることに照らせば、本件要綱自体からも本件推進会議が基本条例の進行管理及び推進等に必要な調査等を予定していることがうかがわれる。そして、実際の本件推進会議の活動内容をみても、市の市民活動推進課が庶務を担当する中で、市からの提案に基づき、基本条例44条、45条に規定されている市民投票制度に関して生駒市市民投票条例案を検討し、市民に対するアンケート調査やパブリックコメントの募集を行った上で本件推進会議として上記投票条例案を策定し、これを被告に提出している。
以上のことからすれば、本件推進会議は、市において諮問及び調査等を行う合議制の機関としての実態を有するものというほかはないから、本件推進会議は法138条の4第3項所定の附属機関に該当し、本件推進会議の設置は法律又は条例に基づかない無効なものであると認めるのが相当である。
 (4) 判例に対する見解
本件推進会議は、委員に公募による市民を含んでいるが、市民参加型の会議であっても、附属機関性の判断には影響はないとしており、下級審レベルではあるが、現在における裁判所のスタンダードな判断といえると思う。
なお、本件推進会議の委員は8名であり、そのうち3名が学識経験者であるが、学識経験者である委員には一人当たり日額1万4,000円、その他の委員には一人当たり日額5,000円の報酬が支払われているが、委員間で報酬額に違いがあることについて、原告は憲法14条1項に違反して違憲であるという主張を行っている。発送としてはおもしろいと感じたが、ためにする批判という印象である。

いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(1)

以前(以下の関連記事)、要綱等で設置するいわゆる私的諮問機関が附属機関として条例で設置すべきとして違法であると主張されている判例4件について取り上げたことがあるが、今回は、その後に出された次の3件を取り上げる。

今回も、判例を1件ずつ取り上げた後、最後に総括することとしたいが、判例では、違法性は認めるが、結論としては第一審原告の請求を認めないケースが多いので、その点について、総括の中で前回のシリーズで取り上げた判例についても合わせて触れることとしたい。
なお、今回も、特に注記をせずに「地方自治法」を単に「法」と、対象としている私的諮問機関を単に「本件委員会」というように表記することがある。
1 平成25年8月5日松江地裁判決(平成24年(行ウ)5号)
(1) 対象
出雲市長が設置した出雲市自治基本条例(仮称)市民懇話会(以下「懇話会」という。)及び「出雲市自治基本条例(仮称)」条例案検討会(以下「検討会」という。)
(2) 活動内容
ア 懇話会
設置の目的・諮問事項は、出雲市自治基本条例の制定に向け、条例に関する事項につき、調査、研究及び検討を行い、条例素案となる意見を取りまとめ、提言書の形で市長に提出する点にある。
委員構成は、定数が25名以内で、必要に応じて別途アドバイザーを置くことができると定められている。
委員の任期は、1年以内(ただし、再任可)と定められていて、設置期間については、特に定めはない。
イ 検討会
設置の目的・諮問事項は、出雲市自治基本条例の条例案の作成を行い、市長に報告する点にある。
委員構成は、識見を有する者、懇話会委員、市職員による10名以内で組織するものと定められている。
委員の任期は、事務が終了するまでとすると定められており、設置期間については、特に定めはない。
(3) 裁判所の判断(原文)
ア 附属機関条例主義の制度趣旨から見た「附属機関」の意義
……法138条の4第3項は、昭和27年に新設された規定であるが(同年法律第306号)、衆参両議院の地方行政委員会及び衆参両議院の本会議の各会議録……を参照しても、その立法者意思は明確ではない。そこで、その合理的制度趣旨について、検討するに、昭和27年の上記改正前は、附属機関の設置は、首長の組織編成権限に当然に含まれ、条例によることなく、任意に設置することができるとされていたのであり、その当時、多様な附属機関が設置されていたものと推測されるところ、上記制度趣旨は、これらを整理し、首長による附属機関の濫設置を防止すること、又は、議会の民主統制を及ぼす必要があること、以上をもって、首長の組織編成権に制約を加える点にあるものと解される。
このような法138条の4第3項の制度趣旨に照らすと、同項の「附属機関」とは、その文言の通常の意味から「審査、諮問又は調査のための機関」に該当するもので、上記制度趣旨に照らして、濫設置に当たる機関、又は、議会による民主統制の必要のある機関を意味するものと解するのが相当である。そうすると、「審査、諮問又は調査のための機関」であっても、濫設置に当たらず、かつ、議会による民主統制の必要のない機関であれば、首長の合理的な組織編成権限に委ねられているものと解すべきであり、このような機関は、法138条の4第3項の「附属機関」には、当たらず、附属機関条例主義の合理的適用外をなすものと解することができる。このように解することで、首長の組織編成権限と、機関の濫設置の防止・議会による民主統制の必要とを合理的に調整することが可能になるものと考える。
そして、このような解釈は、国家行政組織法8条が「第3条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる。」として、審議会等(合議制の機関)について、必ずしも法律によることなく、政令で設置し得ると定めている(なお、法律のみならず、政令でも設置し得るという点については、昭和58年法律77号による同法の改正で新たに定められた。)ことも、上記解釈を体系的視点から補強するものであると解される。
イ 附属機関条例主義の合理的適用外に当たる機関か否かの判断基準
そこで、附属機関条例主義の合理的適用外に当たる機関か否かの判断基準が問題となる。
前記の制度趣旨に照らすと、その機関設置の時点において、当該機関が、〈1〉常設的機関ではないといえるか否かという形式的要素と、〈2〉民意を反映させる実質(いわゆる市民参加型審議会)を有するか否かという実質的要素とを総合して判定すべきものと考える。
そして、その具体的要素としては、a.当該機関の設置の目的・諮問事項、b.委員構成、c.委員の任期・設置期間を考慮すべきである(当該機関が、合議制の機関か否かは、附属機関条例主義の制度趣旨との関係では、その具体的要素として重要ではない。このことは、合議制の機関であったとしても、審議会等につき、政令で設置し得るという前記の国家行政組織法8条の規定からも窺うことができる。)。
ウ 本件懇話会等への当てはめ
……その機関設置の時点において、本件懇話会も、本件検討会も、常設的機関ではなく、臨時的・一時的な機関に過ぎないものであるといえ、かつ、市民から直接意見を聞き、その助言を求めるもので、民意を反映させる実質を有するものであると評価することができる。
……また、……出雲市議会において、本件懇話会等の設置、出雲市自治基本条例(仮称)の原案の説明及びその関連予算案の審議がされ、承認されていることが認められるから、その議会への説明状況及びその対応は、本件懇話会等への議会による民主統制を損なうものでないばかりか、本件懇話会等が民意を反映させる実質を有するものであるという前記の判断要素の充足を裏付けるものである。……以上で検討した諸事情を総合すると、本件懇話会及び本件検討会は、法138条の4第3項の「附属機関」には、該当しないものと解するのが相当であり、これらの機関の設置は、出雲市長の合理的な組織編成権限に委ねられているものと解するのが相当であるから、その設置根拠が要綱にあったからといって、違法視されるものではない。
(4) 判例に対する見解
附属機関条例主義の趣旨を立法当時の見解も参照し、その基準として、(1)臨時的・一時的な機関に過ぎないものであるといえること、(2)民意を反映させる実質を有するものであることのいずれも満たすものは、その合理的適用外になると判断し、本件懇話会等はその適用外であり、結論として適法としている判例としては稀有なものである。附属機関条例主義の趣旨を立法当時の見解を参照して判断している点は好感が持てるが、考え方としては一般的なものとは言えないだろう。
(関連記事)

例規の立案で間違いやすい例(68)

雇用保険法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令(平成28年厚生労働省令第73号)
雇用保険法施行規則の一部改正)
第3条 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)の一部を次のように改正する。
  (略)
様式第31号及び様式第33号の2の3(第2面)中「60日」を「3箇月」に改める。

様式は横書きだから、数字は算用数字を用いたのだろうが、そうすると、「3箇月」の「箇」は平仮名にして「3か月」とすべきである。
税条例のように、縦書きの法律を横書きにする場合にやりがちなことではないかと思う。

例規の立案で間違いやすい例(67)

地方債に関する省令及び地方公共団体の財政の健全化に関する法律施行規則の一部を改正する省令(平成28年総務省令第41号)
地方債に関する省令の一部改正)
第1条 地方債に関する省令(平成18年総務省令第54号)の一部を次のように改正する。
   (略)
附則第7条中第1項を削り、同条第2項を第1項とし、同条第3項を第2項とする。

せっかく「附則第7条中」としたのだから、「……を削り、第2項を第1項とし、第3項を第2項とする」とすれば十分である。

複数の附則の規定の引用

附則の規定を複数引用する場合には、最初の規定にのみ「附則」と明記し、以降の規定は明記しないのが通常である。
ところで、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成29年法律第63号)」の附則第1条の規定は、次のとおりである。

(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第1条並びに次項、次条、附則第8条及び附則第9条の規定は公布の日から、附則第10条及び第11条の規定はこの法律の施行の日の翌日から施行する。
2 (略)

附則の第10条と第11条の引用は、「附則第10条及び第11条」としているのに対し、附則の第8条と第9条の引用は、「附則第8条及び附則第9条」としている。「附則第8条及び第9条」としなかったのは、そうすると「第1条並びに次項、次条並びに附則第8条及び第9条」とする必要があり、表記が長くなることを避けたということだろうか。
ただ、同法の附則第8条は、次のとおりである。

意見公募手続等の適用除外)
第8条 次に掲げる政令を定める行為については、行政手続法(平成5年法律第88号)第6章の規定は、適用しない。
(1)  (略)
(2) 附則第4条第1項第2号及び第2項、附則第5条第2号並びに次条の規定に基づく政令

これは、「附則第5条第2号」の部分を「第5条第2号」としても、単に「附則第4条第1項第2号及び第2項、第5条第2号並びに次条」とすれば足りるので、あえて「附則第5条第2号」とする理由が思い浮かばない。よく分からないところである。

例規の立案で間違いやすい例(66)

特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(平成28年経済産業省令第36号)
(特許登録令施行規則の一部改正)
第5条 特許登録令施行規則(昭和35年通商産業省令第33号)の一部を次のように改正する。
   (略)
第13条の3第2項中……に改め、同条を第13条の6とし、第13条の2を第13条の5とし、第13条の見出しを……に改め、同条を同条第2項とし、同条に第1項として次の1項を加える。
(第1項略)
第13条を第13条の4とし、第12条の次に次の3条を加える。
第13条〜第13条の3 (略)
第13条の6の次に次の1条を加える。
第13条の7 (略)

第13条の3の改めと第13条の改めを同じ改め文で行っていることはともかくとして、第13条の7の改めは、その次の条の前に加えるとするか、次のようにすることになるだろう。

第13条の3第2項中……に改め、同条を第13条の6とし、同条の次に次の1条を加える。
第13条の7 (略)
第13条の2を第13条の5とする。
第13条の見出しを……に改め、同条を同条第2項とし、同条に第1項として次の1項を加える。
(第1項略)
第13条を第13条の4とし、第12条の次に次の3条を加える。
第13条〜第13条の3 (略)

例規の立案で間違いやすい例(65)

無線局免許手続規則及び電波法施行規則等の一部を改正する省令の一部を改正する省令(平成28年総務省令第22号)
(無線局免許手続規則の一部改正)
第1条 無線局免許手続規則(昭和25年電波監理委員会規則第15号)の一部を次のように改正する。
   (略)
別表第5号の7中注13を注14とし、注6から注12までを注7から注13までとし、同表注5の次に次のように加える。
6 (略)

「同表注5の次に……」としている部分は、これでも間違いではないものの、ここにも「別表第5号の7中……」がかかるとして、「同表」とは書かないのが通常だろう。