例規の立案で間違いやすい例(64)

電気事業法施行規則の一部を改正する省令(平成28年経済産業省令第24号)
電気事業法施行規則(平成7年通商産業省令第77号)の一部を次のように改正する。
第52条第2項中「産業保安監督部長。」の下に「次項並びに」を加え、同条第3項を第4項とし、第2項の次に次の1項を加える。
3 (略)
  (略)
第53条第5項中第4号を同項第5号とし、同項第3号中「、電気保安法人又は」を「及び電気保安法人、ダム水路管理技術者及びダム水路保安法人並びに」に改め、同号を同項第4号とし、同項第2号の次に次の1号を加える。
(3)  (略)

第52条の改正規定は、第3項を第4項とし、第3項を加える部分は、「同条第3項を同条第4項とし、同条第2項の次に次の1項を加える」とするか、「同条中第3項を第4項とし、第2項の次に次の1項を加える」とすべきである。
第53条第5項の改正規定は、「第53条第5項中第4号を第5号とし……」とするか、「第53条第5項第4号を同項第5号とし……」とすべきである。
しかし、同一の法令で、間違い方が一貫していないのはなぜだろう。

湾岸戦争時における自衛隊の海外派遣の法的根拠

平成2年、イラククウェートに侵攻した湾岸戦争の際に、次の事項に対処することついて法的根拠をどこに求めるか問題となった。

  1. 避難民のヨルダンへの本国輸送に自衛隊輸送機による輸送を行うこと。
  2. 湾岸戦争が停戦した後、ペルシャ湾に敷設された機雷の掃海のため、自衛隊の掃海艇を派遣すること。

1については、自衛隊第100条の5に基づき暫定政令を制定することにより、2については、自衛隊法第99条により行うこととし、いずれも新たな立法措置を講ずることはなかったが、こうした対応が国会で問題とされている。
1で問題とされたことは、自衛隊法第100条の5が航空機による輸送の対象を「国賓内閣総理大臣その他政令で定める者」と規定しており、この規定を根拠として制定した政令は、委任の範囲を超えているのではないかということである。つまり、かつて同条に関する国会答弁で、代表列記された国賓内閣総理大臣とかけ離れた者を政令で規定することは予定していないとされており、今回の政令がそのかけ離れたものだという批判であるが、当時の政府の見解は次のとおりである。

かけ離れているか否かは、高位高官であるか否かという社会的地位にのみ着眼して判断すべきものではなく、その者の置かれた状況、国による輸送の必要性その他諸般の事情を総合して判断すべきであるところ、湾岸危機というわが国にとっても重大緊急事態に伴って生じた避難民については、国連の委任を受けた国際機関の要請を受け、人道的見地から国際協力としてこれを輸送することが適当であると認められる場合には、そのような避難民は、航空機を用いて国が輸送する対象として前記代表列挙された者とかけ離れた者であるということはできない(大森政輔『20世紀末期の霞ヶ関・永田町 法制の軌跡を巡って』P103〜)。

2で問題とされたことは、自衛隊法第99条は、敗戦直後に日本近海における機雷の掃海を想定したもので、ペルシャ湾上の掃海までも予定したものではないのではないかということである。しかし、政府は、同条は、掃海任務の地理的範囲について明文の限定をしておらず、船舶の航行の安全確保を図るための一種の警察行動を定めた規定であるため、問題はないとした(前掲書P105〜参照)。
しかし、後藤田正晴氏は、1については、自衛隊法第100条の5を追加したときの政府答弁で居留民の引き揚げには使えないとしたことから、難民に使える理屈がないこと、そして2については、同法第99条の制定の経緯から日本近海に限定されていることから、こうした政府の態度を批判し、「近道をとって物事を運ぼうとするところに、非常に危険を感じる」と述べている(後藤田正晴『政と官』P192〜)。
例規の立案に当たっては、その制定時に想定していなくても、そう読めるのであり、一定の理屈があれば、あえて改正等を行う必要はないと思いがちである。しかし、法解釈に関してであるが、碧海純一『法と社会』(P161)は、次のように記載している。

もともと立法のときにまったく予想されていなかったような、事件の解決を法律に期待することは無理なはなしである。その無理をあえて行なうばあいにはー民法学者来栖三郎教授のたくみな表現を借りればー「法律にない袖を振らせる」ことになってしまう。

なかなか厳しい意見である。

例規の立案で考えられない間違いをしている例(5)

行政不服審査法及び行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令(平成28年厚生労働省令第25号)
社会保険審査官及び社会保険審査会法施行規則の一部改正)
第3条 社会保険審査官及び社会保険審査会法施行規則(昭和28年厚生省令第43号)の一部を次のように改正する。
第2条を削り、第5条を第2条とし、第3条を次のように改める。
(映像等の送受信による通話の方法による口頭意見陳述等)
第3条 (略)
第4条を次のように改める。
(証票)
第4条 (略)

これは、当然、次のようになる。

第2条から第4条までを削り、第5条を第2条とし、同条の次に次の2条を加える。
(映像等の送受信による通話の方法による口頭意見陳述等)
第3条 (略)
(証票)
第4条 (略)

例規の立案で考えられない間違いをしている例(4)

関税法施行規則等の一部を改正する省令(平成27年財務省令第91号)
 関税法施行規則(昭和四十一年大蔵省令第五十五号)の一部を次のように改正する。
 (略)
第10条の表中、「日付け」を「日付」に改め、第3条第1項、第5項第1号ロ及び第3号、第4条第3項、第5条第3項並びに第6条第1項の項中「第5項第1号ロ及び第3号、第4条第3項、第5条第3項並びに」を「第5項第5号、第4条第3項、第5条第3項及び」とし、第3条第1項第1号、第3号、第4号、第5項第1号ロ及び第3号、第4条第1項第1号並びに第6条第1項第4号の項中「第5項第1号ロ及び第3号、第4条第1項第1号並びに」を「第5項第5号、第4条第1項第1号及び」とし、第3条第3項、第4項、第5項各号列記以外の部分及び第5号並びに第6項の項中「及び第5号」を「及び第7号」とし、第3条第3項第2号の項を削り、同表の第5条第1項第2号及び第6条の項の前に第5条第1項第1号の項を、第6条第1項第3号及び第2項第3号の項の前に第6条第1項第1号及び第2項第1号の項を次のように加える。

第5条第1項第1号の項(略)(略)
第6条第1項第1号及び第2項第1号(略)(略)

正しい方法は、以下のとおりである。

第10条の表中「日付け」を「日付」に改め、同表の第3条第1項、第5項第1号ロ及び第3号、第4条第3項、第5条第3項並びに第6条第1項の項中「第5項第1号ロ及び第3号、第4条第3項、第5条第3項並びに」を「第5項第5号、第4条第3項、第5条第3項及び」に改め、同表の第3条第1項第1号、第3号、第4号、第5項第1号ロ及び第3号、第4条第1項第1号並びに第6条第1項第4号の項中「第5項第1号ロ及び第3号、第4条第1項第1号並びに」を「第5項第5号、第4条第1項第1号及び」に改め、同表の第3条第3項、第4項、第5項各号列記以外の部分及び第5号並びに第6項の項中「及び第5号」を「及び第7号」に改め、同表の第3条第3項第2号の項を削り、同表の第5条第1項第2号及び第6条の項の前*1に次のように加える。

第5条第1項第1号の項(略)(略)
第10条の表の第6条第1項第3号及び第2項第3号の項の前に次のように加える。
第6条第1項第1号及び第2項第1号(略)(略)

*1:項の加えももちろん「……の次に次のように加える」とするのが原則ではある。

資格制度における名称独占等について〜保健師助産師看護師法における議論

次の規定は、保健師助産師看護師法の規定である。

第29条 保健師でない者は、保健師又はこれに類似する名称を用いて、第2条に規定する業をしてはならない。
第30条 助産師でない者は、第3条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法(昭和23年法律第201号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
第31条 看護師でない者は、第5条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
2 保健師及び助産師は、前項の規定にかかわらず、第5条に規定する業を行うことができる。
32条 准看護師でない者は、第6条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

上記のとおり、保健師については、保健業務自体は業務独占ではないが、保健業務における名称独占が規定され、違反には罰則が課せられている。他方、助産師、看護師及び准看護師については、業務独占ではあるが、その名称の使用について制限が設けられていない。
平成16年9月から、社会保障審議会医療部会において、医療提供体制のあり方について議論が行われ、その中で看護師等の名称独占が検討すべき論点として指摘された。このため、平成17年4月に厚生労働省有識者からなる「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」を置き、それについて検討されたことがある。
名称独占の意義については、平成17年5月27日に開催された同検討会に提出された資料「看護師、助産師及び准看護師の名称独占について」の中で、次のように記載されている。

一般に専門的な資格、業務を識別させ、それに対する社会的な信用力を確保し、相手方との信頼関係の確立や被害の未然防止を狙いとしていると考えられる。行政的に一定の水準を確保する手段として活用する狙いを持つものもあると考えられる。
なお、業務に関係なく、名称独占とされるもの(例 医師)が多いが、業務に関して名称独占とされるもの(例 保健師)もある。

なお、名称独占及び業務独占については、昭和63年12月1日、臨時行政改革推進審議会(新行革審)から「公的規制の緩和に関する答申」が出されているが、これは、資格制度が多く作られ過ぎているのではないかという問題意識から、資格の抑制を図ろうという観点からの答申であり、上記資料に次のとおり引用されている。

III 検査・検定制度・資格制度
3 資格制度
(3) 制度の内容等による区分とこれに応じた見直しの視点
(1) 業務独占資格
有資格者以外は当該業務に従事することを禁じることにより、資格者に対して業務を独占させるとともに業務上の一定の義務化を課する資格については、国民の生命や財産の安定を図る上で重大な役割を果たす者等に限定するとともに、業務独占の範囲を必要最小限のものとする。
(3) 名称独占資格
国民の利便や職業人の資質向上を図るため、一定の基準を充足している旨を単に公表し、又は一定の称号を独占的に証することを許す資格については、国が設けるにふさわしい特別な社会的意義を有する者に限定する。

しかし、上記検討会は、平成17年6月29日、次のとおり名称独占規制を行うべきとの中間まとめを行っている。

3 助産師、看護師及び准看護師の名称独占について
(1) 現状及び問題の所在
○ 昭和23年の法制定により確立した看護職員の資格規制においては、看護業務、助産業務については業務独占※1があるが、名称独占※2については、保健師に関して、その保健指導業務上の名称独占が認められているだけである。それに対して、その後創設された理学療法士(昭和40年資格法制定)等、看護業務の中の診療の補助業務の一部を業務範囲とする医療関係職種については、ほとんどの職種がその業務について業務独占としていることに加え、名称独占とされている。福祉関係資格である、社会福祉士介護福祉士(昭和62年資格法制定)については、業務独占がなく、名称独占となっている。
※1 一定の有資格者にのみ一定の業務の実施を独占させる規制。なお、一般に理学療法士理学療法に関する業務独占資格であると説明されているが、厳密に言うと、理学療法は看護業務の一部であるため、看護職員以外にはその実施が禁止されているが、理学療法の実施については、理学療法士にその禁止が解除されているということである。
※2  一定の有資格者についてのみその資格の名称の使用を認める規制。一般にその資格を有さない者にはその資格の名称又はその資格と紛らわしい名称の使用があわせて規制される。保健師のような限定的な名称独占規制は例外的である。
なお、名称独占のみの場合、業務の実施については制限されない。
○ これについては、以下のように問題点が指摘されている。
・ 医療サービスの不可欠の担い手であり、生命に関わるという看護関係資格の業務の本質から考えても、医療の質、安全の確保を図る上で、看護関係資格について名称独占とし、社会的な信用力を確保し、相手方との信頼関係の確立や被害の未然防止を図る必要性が高い。
・ 多くの医療関係職種や福祉関係職種において名称独占とされていることとも不整合であり、同じく名称独占とすべきである。
・ 名称独占が規制されていないことから、過去に遺憾な事例が存在した。特に、近年、医療に対する患者の信頼確保が重要な課題となっており、患者に対する正しい情報提供が求められる中で、名称独占とする必要がある。
・ 守秘義務のある資格でありながら、名称独占がないことは、資格としての信用力に欠けるおそれがある。
・ 保健師についても、これまでの保健指導業務に限らず、その資格としての信用力を背景として、幅広く活動の場が広がってきており、業務を限定せずに一般的な名称独占にすべきである。
 (2) 今後の方向性
○ 名称独占規制の必要性、緊急性については、意見が一致した。したがって、次期医療法改正と合わせて、法を改正し、助産師、看護師及び准看護師の名称独占を導入すべきである。ただし、紛らわしい名称についてどこまで規制できるのかなど、法制面での検討を行う必要がある。
○ また、保健師についても、あわせて、保健指導業務に限定しない、名称独占とすべきである。

看護職員については、業務独占という、名称独占より強い規制をかけられているのだから、名称独占規制を設ける必要はないとの議論もある中で(第3回検討会議事録参照)、名称独占規制がなされていない問題点もあることから、上記のような取りまとめがなされたのだが、未だ法改正はなされていないようである。

例規の立案で間違いやすい例(63)

統計法施行規則の一部を改正する省令(平成28年総務省令第9号)
統計法施行規則(平成20年総務省令第145号)の一部を次のように改正する。
 (略) 第16条の見出しを「(匿名データの提供に係る手続等)」に改め、同条を次のように改める。
第16条 (略)

これは、単純に「第16条を次のように改める。」として、改行後に第16条の見出しと条文を書けば足りる。
「第16条中「○○」を「××」に改める。」とした場合には、仮に見出しに「○○」の字句が含まれていても、それは改められることがないということからすると、このように考えてしまうのも仕方がない面もある。

新旧対照表方式は法律改正にも用いられるのか

省令等の改正において新旧対照表方式を用いることは、もはや当たり前のようになっているが、では、これが法律や政令まで広がるのだろうか。このことに関連して、衆議院事務総長である向大野新治氏の著書『議会学』(P183)に、次の興味深い記述がある。

かつて我が国帝国議会においても、議案審査特別委員会及び第二読会のステージでは逐条審議を行うことになっており、実際に実行されたことがあるものの、すぐに廃れていっている。これには、逐条審議が現実的ではなかったことがあろう。つまり、法案には、重点となる部分とそうでない部分があり、いちいち全て審議するのは、大変な労苦だったことがある。ましてや改正法案となると、その傾向が顕著であり、逐条審議の意義を見出すのは難しい。さらに、これに加えて、我が国の改正法案の作り方にも原因があったのかもしれない。溶け込み方式と言って、条文が、「第○条の「○○」の後に「△△」を入れ、「□□」を削除し、第○条中、「▽▽」を「◇◇」に改める」といった形で作られており、逐条審議になじまないのである。逐条審議のためには、新旧対照表方式にせざるをえないが、そうした提案がなされたことはない。

普通に考えると、新旧対照表方式が法律改正にまで用いられることは、事務的な提案等でなされるとは考えられない。そうすると、議案審議に必須ではない新旧対照表方式が政治的なレベルで採用しようという流れになることは考えにくいのだが、果たして……。