「及び」と「又は」(その2)

次の規定は、「社会福祉法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令平成28年政令第185号)」第1条の規定により追加された社会福祉法施行令第13条の2の規定である。

(特別の利益を与えてはならない社会福祉法人の関係者)
第13条の2 法第26条の2の政令で定める社会福祉法人の関係者は、次に掲げる者とする。
(1) 当該社会福祉法人の設立者、理事、監事、評議員又は職員
(2) 前号に掲げる者の配偶者又は三親等内の親族
(3)・(4) (略)
(5) 当該社会福祉法人の設立者が法人である場合にあつては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として厚生労働省令で定めるもの

「及び」と「又は」の使い分けは難しい面があるが、「及び」ではなく「又は」を使うべき場合として、「及び」とすると「かつ」という意味合いで読まれることがあり、それを避けたい場合があると思う。
その意味からすると、第1号と第2号の「又は」は、「及び」でもいいとは思うが、「及び」とすると「かつ」と読まれる可能性があり、「又は」とすることも分からないではない。
しかし、第5号は、そのように読まれることはないので、「又は」は「及び」とした方が適当だと思う。
(関連記事)

条例を廃止する理由〜熱中症の予防に関する条例

近年の夏の猛暑は、従来にないものだということは今まで言われてきたが、今夏は、特に強烈なものだったと思う。人が熱中症で病院に搬送されることと対比して、蚊は気温が35度を超えると活動をしなくなるといったことが話題になったりもした。
そんな中、滋賀県草津市では、平成17年に「草津市熱中症の予防に関する条例」を制定しており、それを知ったときは時代を先取りしているような印象を持ったところである。
この条例が制定された理由は、吉田勝光ほか『文化条例政策とスポーツ条例政策』(165頁)によると、平成16年7月8日に市内の高等学校で教職員及び生徒16名が熱中症と思われる症状で緊急搬送されたことがきっかけとのことである。
条例の内容は、市内において熱中症が発症しやすい気象条件となった場合に市長が熱中症厳重警報を出すこととするほか、市、市民、事業者及び施設管理者の責務などを定めていた(前掲書167頁)。
しかし、この条例は、早くも平成22年に廃止されている。その主な理由は、次のとおりである(前掲書170頁)。

  • テレビなどで熱中症の注意喚起がなされるようになり、熱中症の認知度が高まった。
  • 人の体調により、発症に至る水準は様々である。熱中症厳重警報発令以前でも、救急搬送者がいる実態がある。
  • 職員の負担、人件費等の問題

条例を廃止したことについて、前掲書(174頁)は、次のとおり批判的な見解を述べている。

……廃止理由は、同条例を全面的に廃止するだけの合理性に欠け、また、条例の存続自体が住民などへの注意喚起の手段としてその効果は十分期待できることから、熱中症厳重警報発令制度を削除する一部改正にとどめる方法も十分に検討されるべきであった。

しかし、そもそもこの条例は、熱中症厳重警報が発令された場合であっても、住民等は「熱中症の発症を回避するための措置を講ずるものとする」と規定するのみであり(条例第7条第4項(前掲書174頁))、住民等の具体的な行為規範たる規定を有しておらず、内容としては条例を制定する意味はなかったものであり、むしろ早期に廃止したのは、それなりに評価すべきではないだろうか。
いずれにしろ、法令は、制定事例だけではなく、廃止の経緯等について見ていくと、興味深いものもあるように感じる。

いわゆる障害者雇用の水増し問題に関する雑感

国及び自治体において障害者雇用の水増しがなされていたと報道されている問題について、国においては、第三者検証委員会を設置し、10月中には報告書をまとめるといった報道がなされている。
障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「法」という。)」において事業主に雇用義務が課されている障害者は、「対象障害者」として法第37条第2項で「身体障害者知的障害者又は精神障害者精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る……。)をいう」と定義されている。
このうち、身体障害者に関する法の定義規定は、次のとおりとなっている。

(用語の意義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)  (略)
(2) 身体障害者 障害者のうち、身体障害がある者であつて別表に掲げる障害があるものをいう。
(3)〜(7) (略)
別表 障害の範囲(第2条、第48条関係)
一 次に掲げる視覚障害で永続するもの
イ 両眼の視力(万国式試視力表によつて測つたものをいい、屈折異状がある者については、矯正視力について測つたものをいう。以下同じ。)がそれぞれ0.1以下のもの
ロ 一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
ハ 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
ニ 両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
二 次に掲げる聴覚又は平衡機能の障害で永続するもの
イ 両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
ロ 一耳の聴力レベルが90デシベル以上、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
ハ 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの ニ 平衡機能の著しい障害
三 次に掲げる音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害
イ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の喪失
ロ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の著しい障害で、永続するもの
四 次に掲げる肢体不自由
イ 一上肢 一下肢又は体幹の機能の著しい障害で永続するもの
ロ 一上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて一上肢の二指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの
ハ 一下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
ニ 一上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
ホ 両下肢のすべての指を欠くもの
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、その程度がイからホまでに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
五 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの

この定義は、基本的には身体障害者福祉法における身体障害者の定義と同様なものとなっている。すなわち、同法第4条が「この法律において、『身体障害者』とは、別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」と規定しており、同法の別表は、法の別表と同じ内容となっている。
そのため、法の対象障害者である身体障害者は、原則として身体障害者手帳の交付を受けている者ということになるのだろうが*1、そのように明記するのであれば、法の定義を「都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者及びそれに準ずる者として〇〇で定める者」といったような書き方が考えられる。しかし、そうした書き方をしていないのは、そもそも対象障害者の雇入れは、努力義務であり(法第37条第1項)*2、国及び地方公共団体の義務は、対象障害者の雇用が法定雇用率に達していない場合に、当該者の採用計画を作成することであることから(法第38条第1項)*3、多少解釈の余地を残したのではないかという気がしないでもない。
こうしたことからすると、現在の担当者が適切な事務処理を行うことはかなり難しい面があるのではないかと感じるところである。そうした意味からも、国の第三者検証委員会の報告がどのようなものになるのか注目したいところである。

*1:したがって、身体障害者手帳の交付を受けていなくても、その申請をすれば受けられるような状態にある者であることが必要ということになるだろう。

*2:法第37条第1項は、「全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない」という規定である。

*3:法第38条第1項は、「国及び地方公共団体の任命権者……は、職員……の採用について、当該機関に勤務する対象障害者である職員の数が、当該機関の職員の総数に、第43条第2項に規定する障害者雇用率を下回らない率であつて政令で定めるものを乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)未満である場合には、対象障害者である職員の数がその率を乗じて得た数以上となるようにするため、政令で定めるところにより、対象障害者の採用に関する計画を作成しなければならない」という規定である。

いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(6)

今回のシリーズは、この記事で当面終了である。
今回取り上げた判例の中で平成25年8月5日松江地裁判決は、違法とされなかったものの、訴訟の対象となる事案については、ほとんど違法の判断がなされており、その判断に対しては概して批判的な意見が多いものの、傾向としては定着してきていると言える。
裁判所は、法の文面、すなわち法138条の4第3項本文*1及び法202条の3第1項*2の文理から附属機関性を判断している。
平成25年11月7日大阪高裁判決及び平成27年6月25日大阪高裁判決は、いずれも第一審原告が上告を行っているが、前者は平成26年3月13日最高裁決定により、後者は平成28年4月22日最高裁決定により、民事訴訟法第318条第1項により不受理とされており、最高裁の判断はまだなされていない状況であるものの、現状では、組織体として活動するものについては、附属機関性を認められるものとして考えざるを得ないだろう。
ただし、私的諮問機関の設置自体は違法としても、損害賠償請求等について認めた判例は、高裁レベルでは、今回取り上げたものではなく、平成21年6月4日広島高裁判決に見られる程度である。
損害賠償請求等を認めない理由としては、平成25年11月7日大阪高裁判決及び平成27年6月25日大阪高裁判決では、附属機関の意義の解釈について必ずしも一致をみていないことなどから、故意又は過失により支出がなされたとはいえないというものである。以前の判例では、平成14年1月30日さいたま地裁判決において、支出した経費は各委員が会議に出席して提供した役務の対価として相当であるとして損害がないと判断したものがあるが、その後そうした判断をしているものは見当たらない。
そうすると、例えば『判例地方自治412号』(P9)では、「附属機関条例主義について厳格な判断がなされて支出の違法性までは認定されている現状で、今後、法律あるいは条例によらずして設置される附属機関への支出が違法であることの認識が難しかったとの理由で、長の故意・過失を否定する裁判例がいつまで続くのかは、全く不明であるといわざるをえません」とあるが、そうした点への留意も必要なのであろう。

*1:普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる」という規定である。

*2:普通地方公共団体の執行機関の附属機関は、法律若しくはこれに基く政令又は条例の定めるところにより、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う機関とする」という規定である。

いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(5)

(「3 平成26年9月3日大阪地裁判決(平成24年(行ウ)262号)及び平成27年6月25日大阪高裁判決(平成26年(行コ)158号)」の続き)
 (3) 判例に対する見解
基本的な考え方は、平成25年11月7日大阪高裁判決と大差ないと思うが、注目すべき点は、独任制の機関についても附属機関となり得るものがあると判断していることである。つまり、市特別顧問など独任制の機関について、附属機関とすべきとしているが、その理由は、自治紛争処理委員が地方自治法において明文で附属機関とされていることに求めている*1
しかし、判決でも触れているように、自治紛争処理委員は、地方自治法251条の2第10項の規定により一部の職務を合議により行うものとされており*2、その合議により行う職務は、自治紛争処理委員として本質的な職務であることからしても、独任制の機関として活動する側面があることをもって附属機関は独任制でも構わないとすることには直ちにはならないだろう。
むしろ、調査を行うことを職務とする専門委員は条例による必要はない(地方自治法第174条参照)。したがって、附属機関との違いは、独任制であるか合議制であるか(組織であるかどうか)の違いであり、その点を条例によるべきかどうかのメルクマールにしていると考えるべきである。
なお、附属機関であるか否かについて、組織性に着目するのであれば、市採石等公害防止対策協議会は、調査部会や監視部会を置いていることにも着目することになるのではないかと感じる。

*1:地方自治法第138条の4第3項本文は「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる」としている。

*2:地方自治法251条の2第10項の規定は、「第3項の規定による調停案の作成及びその要旨の公表についての決定、第5項の規定による調停の打切りについての決定並びに事件の要点及び調停の経過の公表についての決定並びに前項の規定による出頭、陳述及び記録の提出の求めについての決定は、自治紛争処理委員の合議によるものとする」という規定である。

いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(4)

(「3 平成26年9月3日大阪地裁判決(平成24年(行ウ)262号)及び平成27年6月25日大阪高裁判決(平成26年(行コ)158号)」の続き)
 (2) 裁判所の判断(原文)
  ア 附属機関の意義等
   (ア) 法138条の4第3項は、普通地方公共団体が法律又は条例によって執行機関の附属機関として「調停、審査、諮問又は調査」のための機関を置くことができる旨を、法202条の3第1項は、附属機関とは条例等の定めるところによりその担任する事項について「調停、審査、審議又は調査等」を行う機関である旨をそれぞれ定めている……。そして、一般的に、「調停」とは、第三者が紛争当事者の間に立って、当事者の互譲によって紛争の妥当な解決を図ることを、「審査」とは、特定の事項について判定ないし結論を導き出すために、その内容を検討することを、「諮問」とは、特定の事項について意見や見解を求めることを、「審議」とは、特定の事項について意見を述べ議論することを(……法138条の4第3項と法202条の3第1項の関係からすると、後者にいう「審議」は、前者の「諮問」に対応する表現であり、諮問に応じて審議が行われることを想定したものと解される。)、「調査」とは、一定の範囲の事項についてその真実を調べることを、それぞれ意味するものである。上記各条項の規定文言、規定内容によると、附属機関とは、執行機関の行政執行のため、又は行政執行に伴い、上記のような意味での、調停を行ったり、審査を行ったり、諮問を受けて審議を行ったり、調査を行ったりすることを職務とする機関であると解される。
   (イ) ところで、被告は、附属機関は合議制を採用する恒常的な組織でなければならない旨主張する。
確かに、普通地方公共団体の執行機関が市民からの多種多様なニーズや専門的知見を要する行政上の諸問題に対応する上では、執行機関において、広く市民に意見を求めたり、外部の有識者から意見を聴取したり、特定事項についての調査を依頼するために、何らかの組織を編成する必要が生ずることは否定できず、特に、そのような組織の編成が緊急性を要する場合には、条例の制定行為を経て、附属機関の設置を図っていては、必ずしも迅速な対応ができない場合があり得る。行政対応の遅延、硬直化を避け、迅速、柔軟な行政遂行を確保する上で、条例によることなく、外部からの意見聴取を行う組織を設置する余地を認めるという観点から、被告が主張するような、非合議制の組織や臨時的・一時的に設置される組織を後記のような附属機関条例主義の適用対象から除外しようとする考え方にも相応の合理性があるものということができる。後記のとおり、被告の上記主張と同様、附属機関について合議制の機関であるとする見解や、臨時的・一時的な組織の附属機関該当性を否定する見解等も存するところである。
しかしながら、法138条の4第3項は、昭和27年の地方自治法の一部改正によって新たに設けられたものであるところ、上記改正以前は、附属機関に相当する組織も、執行機関の行政執行に資するために設置されるものであるとの観点から、その設置権限が執行機関の持つ執行権限のうちに当然に含まれているものと解され、法令に特別の定めがない限りは、各執行機関が、組織編成権の行使として、規則その他の規定で任意に附属機関を設置することができ、条例の根拠を必要としないものとの理解の下で、多種多様な附属機関が条例等に基づくことなく設置されていた……。そのような状況の下で、新たに法138条の4第3項が設けられたという経緯に照らすと、同項は、普通地方公共団体が任意に附属機関を設ける場合には、必ず条例によらなければならないことを定めたものであり(以下「附属機関条例主義」という。)、その趣旨は、執行機関による組織の濫用的な設置を防止するとともに、その設置に議会による民主的統制を及ぼすことにあるものと解される。このような趣旨からすると、同項や法202条の3第1項に定められる前記……のような職務(調停、審査、諮問を受けての審議、調査)を行う組織は、むしろ、合議制であるか否かを問わず、また、恒常的に設置されるか否かを問わず、附属機関条例主義の適用対象とされているものと解することが自然であり、現に、法やその関係法令上、附属機関一般について組織の形態や存続期間等を定める規定は見当たらない。明文で附属機関とされている自治紛争処理委員が、事件ごとに任命され(法251条2項)、独立して職務に当たる機関であることも、上記解釈を裏付け得る(自治紛争処理委員は、一部の職務〔法251条の2第10項〕を合議により行うものとされているが、同項は同委員らの合議によるべき職務を限定的に列挙したものと解されるから、同委員は、基本的には委員各々の判断と責任において調停等の職務に当たる独任制の機関であるというべきである。)。そして、附属機関の設置について、議会を招集し、条例の制定、施行を待つ猶予がないほどに緊急性を求められる場合には、法179条1項の規定により普通地方公共団体の長が専決処分としてその設置を図る余地もある。
したがって、上記のような法138条の4第3項の制定の経緯、趣旨、法の規定ぶり等に照らせば、被告の主張するような考え方にも相応の合理性があるとしても、もはやそれは立法論にわたるものであって、同項の解釈論としては、合議制を採用していることや組織の恒常性は、附属機関の要件とされていないものといわざるを得ず、被告の上記主張は、採用することができない。
また、被告は、附属機関の設置を条例等によるべきこととした法の改正趣旨に鑑みて、濫用的設置のおそれがない組織や、民主的統制を及ぼす必要がない組織については、附属機関に当たらない旨主張する。
しかし、濫用的設置のおそれの有無や民主的統制の必要性の有無の判断基準は必ずしも明確ではなく、仮にそのような解釈を許せば、執行機関がその第一次的な判断権に基づいて附属機関に相当する機関を設置できることになり、結局、濫用的設置を許すことにもなりかねない。したがって、被告の主張は、直ちに採用することができない。
   (ウ) 以上に照らせば、執行機関の行政執行のため、又は行政執行に伴い、調停を行ったり、審査を行ったり、諮問を受けて審議を行ったり、調査を行ったりすることを職務とする機関であれば、いずれも附属機関に該当するものと解される。
  イ 本件各組織等について
上記で検討した附属機関の意義を踏まえ、本件各組織等について、附属機関該当性を検討すると、以下のとおり、いずれも附属機関に該当するものと認められる*1
   (ア) 高槻市事業公開評価会 (略)
   (イ) 高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員
……特別調査員は、執行機関が、本件売上金不明事案の調査という行政執行のために、その調査を専門家の意見、助力を求めるべく設置していた機関であり、「調査」を行うことを職務とする機関であるということができるから、特別調査員は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、特別調査員は、市が行う調査について助言等を行うもので、自らが調査に当たるものではないから、「調査」を行うことを職務とする附属機関には当たらない旨主張する。しかし、特別調査員は、調査手法等の指導、助言に止まらず、自らが関係者のヒアリング等を行って本件売上金不明事案の原因究明に寄与しているのであり、そのような活動実態に照らせば、その活動は「調査」に当たるものというべきであり、被告の上記主張は採用することができない。
また、被告は、市との間で締結された私法上の準委任契約に基づいて活動するものであるから、特別調査員は機関には当たらない旨主張するものとも解される。しかし、市が選任された特別調査員との間で個別に準委任契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、あらかじめ要綱によって特別調査員の報酬額や特別調査員に関する庶務を担当する部署が定められていること……等に照らせば、特別調査員が市の機関として設置されていることは否定し難く、被告の上記主張は、採用することができない。
   (ウ) 高槻市特別顧問
……特別顧問は、執行機関が政策課題の解決等の行政執行のために有識者に専門的な意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、特別顧問は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、特別顧問は市との間で締結された私法上の準委任契約に基づいて活動するものであるから、市の機関には当たらない旨主張するものとも解される。しかし、市が選任された特別顧問との間で個別に準委任契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、あらかじめ要綱によって報酬額等が定められていること……等に照らせば、特別顧問が市の機関として設置されていることは明らかであり、被告の上記主張は、採用することができない。
   (エ) 高槻市交通部に関する特別改革検討員
……特別改革検討員は、執行機関が、本件交通部改革という行政執行のため、外部有識者に専門的事項に関する意見を求めるべく設置していた機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、特別改革検討員は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、特別改革検討員は市との間で締結した私法上の準委任契約に基づいて活動するものであるから、市の機関には当たらない旨主張するものとも解される。しかし、市が選任された特別改革検討員との間で個別に準委任契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、あらかじめ要綱によって特別改革検討員の報酬額や特別改革検討員に関する庶務を担当する部署が定められていること……等に照らせば、特別改革検討員が市の機関として設置されていることは明らかであり、被告の上記主張は、採用することができない。
   (オ) 高槻市行財政改革懇話会 (略)
   (カ) 高槻市指定管理者選定委員会
……選定委員会は、執行機関が、指定管理者制度の導入やその遂行等の行政執行のために学識経験者を含む委員らの意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、選定委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、選定委員会が、内部組織を規定する形式である訓令により組織されていることや、委員長及び副委員長には副市長が就くとされていることなどからして、内部組織にすぎず、附属機関には当たらない旨主張する。しかし、訓令……上、市の職員以外に学識経験者も委員となることが予定され、現に学識経験者が委員に含まれている以上、これを内部組織と評価することはできないから、被告の主張は、採用することができない。
   (キ) 高槻市地域情報化推進市民会議・(ク) 高槻市入札等監視委員会 (略)
……監視委員会は、執行機関が、入札及び契約手続の透明性確保等の行政執行のために専門家等の意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、監視委員会は附属機関に当たるものと認められる。
   (ケ) 高槻市老人ホーム入所判定委員会
……判定委員会は、執行機関が、老人ホームへの入所措置という行政執行のために、対象者について入所措置をとるべきかどうか等について専門家による審査を参考とすべく設置する機関であり、「審査」を行うことを職務とする機関であるということができるから、判定委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、市の職員である福祉事務所長が委員会を招集するなど、市の職員が主導的に運営しているから、判定委員会は市の内部組織である旨主張する。しかし、要綱上、市の職員以外の医師等も委員となることが予定され、現に医師等が委員に含まれている以上、これを内部組織と評価することはできないから、被告の上記主張は、採用することができない。
   (コ) 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会
……ネットワーク運営委員会は、執行機関が、高齢者虐待防止施策の推進という行政執行のために外部団体から選出された委員等の意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、ネットワーク運営委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、ネットワーク運営委員会は市の高齢者虐待防止ネットワークの運営管理を行うのみで、虐待防止策の検討を行うものではない旨主張する。しかし、ネットワーク運営委員会議事録……から、委員らによる施策の検討等が行われていることは明らかであるから、被告の上記主張は、採用することができない。
   (サ) 高槻市立障害者福祉センター運営協議会・(シ) 健康たかつき21推進会議・(ス) 高槻市予防接種運営委員会 (略)
   (セ) 高槻市予防接種健康被害調査委員会
……健康被害調査委員会は、執行機関が、予防接種による健康被害の処理等の行政執行のために専門家の調査やそれに基づく意見を得るべく設置する機関であり、「調査」を行うことや「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、健康被害調査委員会は附属機関に当たるものと認められる。
   (ソ) 高槻市地球温暖化対策実行計画協議会 (略)
   (タ) 高槻市採石等公害防止対策協議会
……公害防止協議会は、執行機関が、採石事業による公害の防止という行政執行のために、関係者等を含めて採石事業場における公害防止に関する協議、調査等をすべく設置する機関であり、「調査」を行うことや「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、公害防止協議会は附属機関に当たるものと認められる。
   (チ) 高槻市障害児就学指導委員会
……就学指導委員会は、執行機関が、支援学級への入級措置等の行政執行のために、対象児童等について入級措置等をとるべきかどうかの判断の参考となる審査をさせるべく設置する機関であり、「審査」を行うことや「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、就学指導委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、委員の大半が内部職員であり、就学指導委員会は市の内部組織であって、附属機関には当たらない旨主張する。しかし、規則上、市の教職員以外にも、専門医、学識経験者等も委員となることが予定され、現にそれらの者が委員に含まれている以上、これを内部組織と評価することはできないから、被告の上記主張は、採用することができない。

*1:有識者等を委員等として意見を聴くこととしているものが多く、それについては、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であり、附属機関に当たるという判断をしている。以下は、特記すべきもののみ取り上げる。

いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(3)

3 平成26年9月3日大阪地裁判決(平成24年(行ウ)262号)及び平成27年6月25日大阪高裁判決(平成26年(行コ)158号)
17の委員会等についての判断であり、大部になるので、この判決については、3回に分けて取り上げることにする。
 (1) 対象及び活動内容
  ア 高槻市事業公開評価会
市民又は学識経験者から選任される評価者から市の事業について意見を得ることによって、既存事業を見直し、市政運営を効率化するために設置された。
  イ 高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員
専門家から助言等を得ることによって、本件売上金不明事案に関する市の調査を推進することを目的として設置された機関であり、その設置に当たり、特別調査員として選任された者が助言等を行うための準備行為として職員等から事情聴取等を実施することを予定していた。
  ウ 高槻市特別顧問
市の政策課題の解決等のために有識者から政策的又は専門的事項に関する助言等を得る目的で設置された。
  エ 高槻市交通部に関する特別改革検討員
外部有識者から専門的事項に関する意見を聴取し、助言等を得ることで、市が本件売上金不明事案を受けて取り組んでいる本件交通部改革を推進する目的で設置された機関であり、弁護士等から選任された特別改革検討員が、市の職員により構成される「高槻市営バス特別改革チーム」に対して意見を述べ、助言を行い、その後同チームによる報告書が市長に提出されている。
  オ 高槻市行財政改革懇話会
市議会議員や学識経験者等から、市が取り組むべき行財政改革の方策について幅広い意見を得て、効率的な行財政運営を推進する目的で設置された機関であり、市が策定した行財政改革の計画案に関する意見等が懇話会の委員から出されている。
  カ 高槻市指定管理者選定委員会
指定管理者制度導入の検討等の目的で設置された機関であり、委員の中には、市の職員のほか、学識経験者も含まれている。委員会において、市施設への指定管理者制度の導入の是非等について議論がなされ、選定委員会が指定管理者を導入すべき施設及び適切と判断する指定管理者候補者等について意見をまとめて市長に報告している。
  キ 高槻市地域情報化推進市民会議
市の情報化を推進するため、学識経験者等の委員らの協議に基づく助言を得る目的で設置された機関であり、会議において、証明書の電子申請等の情報化政策に関して委員らから意見が述べられている。
  ク 高槻市入札等監視委員会
市の入札及び契約手続の透明性確保等のために、学識経験者等の審議に基づく意見を得る目的で設置された機関であり、入札及び契約手続の運用状況等について審議を行い、監視委員会から市長に対して報告書が提出されて入札制度の改善点等についての提言が行われている。
  ケ 高槻市老人ホーム入所判定委員会
老人医療等の専門家による審査を、福祉事務所長による老人ホームへの入所措置に係る判断に役立てる目的で設置された機関であり、内科及び精神科の医師や学識経験者等が委員として選任されている。委員会において、対象者に対する審査・判定が行われ、これに基づいて福祉事務所長による入所措置がとられている。
  コ 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会
市の高齢者虐待防止施策の検討等を行う目的で設置されたものであり、医師会や老人クラブ連合会等の団体から選出された者が委員となっている。委員会において、市の高齢者虐待防止施策について議論され、委員らにより問題点の指摘等が行われている。
  サ 高槻市立障害者福祉センター運営協議会
学識経験者等の委員らの意見を得ることによって、福祉センターが行う事業等の推進・改善を行う目的で設置された機関である。協議会において、福祉センターの施設の管理・運営方法に関して委員から改善点等の意見が出されている。
  シ 健康たかつき21推進会議
学識経験者等の意見を得ることによって、市民の健康作りを支援するための施策である「健康たかつき21」を推進する目的で設置されたものであり、会議において、健康たかつき21の事業予定、広報方法等について議論され、委員らから意見が出された。
  ス 高槻市予防接種運営委員会
医療専門家の意見を得ることで、市の予防接種業務を円滑に推進することを目的に設置された機関であり、医師会等から選出された委員をもって構成されている。委員会において、市の予防接種の実施方法等について議論され、委員らから意見が出された。
  セ 高槻市予防接種健康被害調査委員会
医療専門家による調査やその調査に基づく意見を得ることで、市の予防接種事業により生じた健康被害の適正かつ円滑な処理を図ることを目的として設置された機関であり、委員会において、予防接種実施時の過誤防止方法等に関して議論され、委員らから意見が出されている。
  ソ 高槻市地球温暖化対策実行計画協議会
学識経験者等の意見を得ることによって市の温暖化対策施策(アクションプラン)を推進することを目的に設置された機関であり、協議会において、アクションプランの改善点等に関して議論され、委員から意見が出されて、その審議結果が市長に報告されている。
  タ 高槻市採石等公害防止対策協議会
採石事業者や関係住民等による協議や調査によって、市内の採石事業による公害の防止を図る目的で設置された機関である。公害防止協議会の調査部会や監視部会が採石現場等の視察を行い、総会において各事業所の公害防止対策等の報告が行われ、調査部会等が引き続き採石事業場等の視察等を行う方針が確認された。
  チ 高槻市障害児就学指導委員会
教育専門家等による協議を、市の教育委員会が行う支援学級等への児童等の入級措置の判断に役立てることを目的として設置された機関であり、委員の中には、教職員のほか、専門医や学識経験者も含まれている。委員会は複数回開催され、就学指導委員会から教育委員会に対して児童等の支援学級への入級等についての答申がされ、教育委員会が就学指導委員会の答申に基づき支援学級への入級措置等をとっている。